先月末に観た映画『ホテル・ムンバイ』。少し時間経ってしまったけれど、余りに素晴らしい映画だったので、紹介します。
こんなに心をえぐられたテロ映画も久し振り。
お恥ずかしい話、2008年11月26日の夜から翌朝に起こったムンバイの同時多発テロについて、自分はその当時のニュースで聞いた事があるくらいの認識しか無かった私たち。
この映画は、インドの巨大都市ムンバイにて同時多発テロで発生した、10件の立てこもり事件の標的の一つ、五つ星ホテルである、タージマハル・ホテルを舞台にした実話です。
テロリストによって、ホテルの従業員、宿泊客約500人を人質にとられ占拠されてしまうも、遠く離れた街から特殊部隊が到着するのは、翌日以降。
そんな悲惨な状況の中、ホテルの従業員が、一致団結して、プロとしての誇りをかけ、宿泊客を逃す事を自分達の使命と考え、結果、多くの命を救う物語。
ただ、悲しい事にこの事件で命を落とした人の多くは、このホテルの従業員であり、身体を張って宿泊客の命を救った、正にタージマハル・ホテルの戦士である従業員達の物語なのです。
(画像は全て公式HPより)
監督は、長編初監督作となるが、バラエティ誌による、2018年注目すべき映画監督10人に選ばれた、オーストラリア出身のアンソニー・マラス。
製作陣は、アカデミー賞3部門にノミネートされた、大傑作『ボーダーライン』のスタッフ。
主演は、『LION ライオン 25年目のただいま』『スラムドッグ$ミリオネア』のデブ・パテル。
この布陣で、生存者へのインタビューを重ね、討議の記録を徹底的にリサーチし、実際の写真や映像も含めて、作った素晴らしい作品でした。
劇中のホテル従業員、宿泊客も、どんな行動が正解か?
誰にも分からない。
決断がそのまま生存に繋がる。
「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客を救う道を選ぶ従業員に感動しつつも、
自分がどちらの立場でも、どんな行動ができるんだろう?
と、とにかく考えさせられる。どちらにしても恐怖の余り、動けなくなると思う。
観た後は、衝撃で言葉も出なかったけど、こういう映画こそ、劇場で観なくてはいけないし、事件の悲惨さを知ると共に、実際に身体を張って多くの人々を救った勇気あるホテルの従業員の勇姿を心に刻むべきだと思いました。
最後の実際の映像は、やはり伝わるものがあります。
「お客様ファースト」という考えを理解するのと、命をかけて行動出来るのでは、雲泥の差だと思うけど、こんな勇敢で誇りを持った従業員を育てる、タージマハル・ホテルってどんな教育してるんだろう。
「こんなテロが起きてしまったら、このホテルはその後どうなったのか?」
それも観ながら気になるのですが、その答えは実際の映像と共に、映画の最後に出てきます。
(この後、ネタバレあり)
実際に、これだけの惨劇があったホテルながら、この素晴らしい従業員に感謝を伝える人々が押し寄せ、また次々と語られたからでしょう。
ホテルのレストランは、この事件からわずか3ヶ月後、ホテルも1年後には再開できたという、それこそが本当に奇跡であり、人の力。
テロに屈しない、という強さを感じ、心から感動しました。
インドには行ったことがないし、インドに行った人は、「めちゃくちゃハマるか、もう2度と行きたくないという人と、二つに分かれる」というし、ハマる自信がなくて行けていないけれど、こんな映画を見たら、「このホテルに行ってみたい!」と思います。
そしてこの映画を素晴らしくしている要素として、ホテルの従業員やお客たちの脱出劇だけを描くのではなく、テロリストの少年たちのことも同じく描いていること。
少年たちもまた、家族を思うひとりの人間であり、彼らのことを恐ろしくも哀しいと感じてしまう。
日本人の私たちには宗教や信仰が身近ではなく、余計に理解が難しいのだけれど、「神は偉大なり」と唱えながら銃を撃ちまくる少年たち。
「異教徒やお金を持った欧米人には何をしても良い」と信じ込ませた首謀者は、今現在も捕まっていない。
そして、首謀者やテロリストが許せないのはもちろんだけど、その根本にあるのは「自分たちと違う異教徒や人種に対する間違った理解」。
それは、味方であるはずの、白人のお客がターバンを巻き髭を生やした従業員を怖がったり、同じお客の中の富豪の娘がペルシャ語で携帯電話で家族と話すのを聞いて「奴らの一味」と騒ぎ出したり。
そんな、小さな誤解や差別が、こんな大きなテロと繋がっているような気がして、本当に考えさせられる。
本当に居た堪れない気持ちになると同時に、この現実とテロの恐ろしさを感じさせるリアリティ溢れるこの作品を観られて良かったと思います。
公開翌日に見に行ったけど、劇場はスカスカ。
こんな傑作なのに、興行が比例せずに公開が終わってしまうのは、余りに勿体ない。
本当におススメです!
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